政経―9:科学としての政治学

【政経主張―第9回】『科学としての政治学樹立へ』
         by 浜田隆政(TAKAMASA HAMADA)

 ……次に、政治学・社会科学における科学としての研究の普(ふ)及(きゅう)と共同作業の必要性について記す。今回は、科学的研究手法の一つとしてコンピューター利用のサイバネティクス的手法としての「構造・機能分析」(*1)と21世紀IT社会での協同・共同研究(*2)の必要性のみを記すことにする。


(*1)サイバネテックスの社会現象分析への応用は、社会学、政治学などで様々な角度から試みがなされてきた。しかし、余りにも現実分析の手段にはほど遠いものであった。それでも、サイバネテックスは今後、自然科学、(教育現象をも含む)社会科学の有効な分析手段となりうるものである。サイバネテックスの社会現象分析への興味深い文献としては以下の本がある。
 Georg Klaus, Kybernetik und Gesellschaft(Berlin: VEB Deutscher Verlag der Wissenshaften Berlin, 1973)
{G・クラウス(石坂悦男訳)『サイバネティックスと社会科学』(合同出版)、1977年}

(*2)この種の萌(ほう)芽(が)としては、ネット上協同百科事典「ウィキペディア」などがある。但(ただ)し、「ウィキペディア」が市民に知られるに従い、官僚などが勤務時間中に自己擁護類の記述を載せたり、書(かき)換(か)えをしたりで、(結果として)草の根からの共同作業の破壊に繋(つな)がる動きも出始めた。
 「誰でも自由に執筆・編集できるオンラインの無料百科事典『ウィキペディア』日本語版で、複数の省庁のコンピューターから、役所の都合のいい修正が行われていた実態が、次々と明らかになってきた。……ネット利用者らが検索した結果、官公庁や企業内のLAN(構内通信網)につながったコンピューターから次々に内容が書き換えられている実態が分かった。厚労省……2006年4月には長妻議員の項目に、『行政官を酷使して自らの金稼ぎにつなげているとの指摘もある』と書き加えられていた。……法務省からは2005年10月、『入国管理局』の項目で、難民認定に関し、『外務省・厚生省ともに面倒な割に利権が全くない業務を抱えるのを嫌がり』と他省の『悪口』を追加。……文部科学省からは今年1月、前政府税制調査会会長の本間正明氏の項目で、『出張旅費の二重取得があった』とする記述を削除していた。各省庁は公用パソコンの業務外使用は、訓令や内規違反にあたるとしている」
 {「朝日新聞」2007年9日8日}。また、『ウィキペディアはどこまで信用できるか』{「朝日新聞」2007年9月4日も参照してもらいたい}


 構造・機能分析」とは何か、砕いて記そう。「構造分析」とは、第4章の如(ごと)く、組織構造を分析し、生じうる危険性を指摘することである。だが、これには学者として限界がある。何故ならば、学者はそうした現場に常にいる訳(わけ)ではなく、どうしても文献頼みか、せいぜいわずかなインタビューで情報を補(おぎな)うだけである。勿論(もちろん)、分業でそうした構造分析も不可欠であることは言うまでもない。
 他方において、「機能分析」とは、第6章で記した社保庁の事例の如く構造を分析することなく、インプットとアウトプットの関係で、問題点を指摘し、構造に欠陥があることを分析する手法である。欠陥の内容は事前に理念型(モデル)を作成しておけば、構造欠陥内容も一定は判断がつく。私はこれを理論政治学、理論社会学として、いずれ浜田式サイバネティクス論として専門的に体系化する予定である。


 機能分析について、もう一例砕いて記そう。ある子供がアレルギー症状を示した。何が原因か人体を解剖したり、組織を採取し顕微鏡などで調べたりするのではなく、原因物質らしきものを少しずつ与える(インプットする)ことにより、アレルギー反応(アウトプット)の有無(うむ)を調べる手法である。こうして、人体を解剖(構造を分析)することなく、原因を特定していく手法である。

 もっと端的な例を出そう。米国で起こった2001年9・11事件をこの理論で分析すれば、回答は米国のエスタブリッシュメントの一部による、「やらせ」・「陰謀」・「自作自演劇」となる確率が極めて大となる(*3)。
 こうして、過去の膨大なデータを蓄積し、そこから一定の理念型との対比で理論分析する作業である。9・11事件と類似事件では、インプットとアウトプットの関係では日本の1931年柳条湖(りゅうじょうこ)事件、若しくは謎の1937年廬溝橋(ろこうきょう)事件などがある。
 インプットやアウトプット側だけでも同様に多数の類似例が内外に歴史的に蓄積されている。アウトプットとすれば、この9・11事件によりブッシュ政権が政治的に支持率を回復し、経済的には石油利権、産軍複合体制の維持に繋(つな)がり、後のイラク侵攻などを可能とした事例から、中身をブラックボックスとしても、理論政治学では「やらせ」・「陰謀」・「自作自演劇」の確率が極めて高いという分析結果がでてくる。遠
 い将来には確率論で「陰謀説」何%、「自作自演説」何%、「偶然可能となった実際の事件説」何%と表示も可能となるであろう。


 (*3)日本では、何故(なぜ)か「9.11事件やらせ説」の実証研究、情報収集とマスメディアを通じての報道はなされなかった。
 しかし、米国では、突入(機)は遠隔操作・自動操縦の実証、操縦士の飛行術の操縦技術不足の実証、WTC建物内で爆薬が仕掛けられていた疑惑の現場にいた人からの証言収集の公表、ペンタゴンは地上で爆破されたことの実証などが米国のHPや一部の雑誌で報じられた。これらは、私の関学時代の恩師・後藤峯雄先生(国際政治学)から送付されて来た資料や米国のHPで確認したものである。日本のワイドショーと異なり、専門的な見地から資料収集や実証が試みられていた。一例としては、「突入階よりはるかに下の階で複数の爆発・爆破があった!」
 出所原文( http://www.asyura.com/2002/war10/msg/304.html)等である。但(ただ)し、これらの実証面はマスメディア、警察、国家情報機関などの仕事であり、私の仕事ではないため、これ以上は論じない。当時の日本のHPと米国などのHPでは専門的な解説としてはかなりの違いが見られたことを強調しておく。



 それらの実証は、ジャーナリストや政治家の仕事として一般には分業される。
 私の記した9・11事件の解釈を読み、私の言うことが当てにならないと考える人は1949年の下山事件に置き換えていただきたい。下山事件はこうした分析によりGHQの犯罪の確率が極めて高い。だが、これを実証するのは至難(しなん)の業(わざ)である。同時にそれらは役割分担からジャーナリストや、まともに機能していれば警察等の仕事となる。

 理論物理学が天体の動向を理論で解明し、それを参考に天文学者などが天体の動向を実証する分業と同様である。両者ともに必要であるが、政治の世界では、米国などが情報公開をしても、まず100年や200年くらいは1949年下山・三鷹・松川事件、1963年ケネディ暗殺、2001年9・11事件などに関する情報は公開しないであろう。

 「真珠湾攻撃」に関しても諸説がある。日本の奇襲がばれなかったのは「やらせ説」、「偶然に成功したという説」等々と。
 だが、分析するのに日本側の資料だけを強調しても余り意味はない。アメリカが情報を掴(つか)んでいたか、暗号を解読していたかどうかは、主としてアメリカ側が資料を提供しない限り実証面での回答はでない。もし、真珠湾攻撃関連の情報が簡単に入手できるならば、マスコミは下山事件などで簡単に証拠をつかめるはずである。
 下山事件レベルですら証拠がつかめぬものを、万一1941年真珠湾攻撃が「やらせ説」であったとしても、アメリカがその種の機密を公表するのは100年か200年後か、永久に開示しないのが常識である。マスコミの力で実証分析するには奇跡に近い偶然の出来事がない限り不可能である。よって、ジャーナリストの実証面だけでは限界があるとなる。原爆投下問題も同様である

 原爆投下の真の目的が分かる(若しくは実証面から明らかにできる)には100~200年後か永久に不明かである。
 だが理論政治学が確立できれば、世界を納得させる形で真の原爆投下目的の解明はできるであろう。現在の原爆投下の論理型説明は科学の域に達していないため論争の段階にしか留(とど)まっていない。しかも時には国民感情――〈米国民対日本国民のみならず、日本の侵略に苦しんだ南京大虐殺の被害者対原爆被災者〉――の対立すら導いているのが現状である。
 本来は戦争犠牲者として連帯が必要であるにも拘(かか)わらず。科学の域に達するには膨大な世界・歴史の比較事例が不可欠となる。同時にそれらを基にして論理整合性を展開するという手法となる。こうして、理論政治学を確立する必要性がある。
 勿論、こうした理論政治学が確立すれば、実証の前に、1931年柳条湖事件、1964年8月トンキン湾事件は「やらせ」であることは即分析可能となり、多数の戦争その他の被害を防ぐことが可能となる。
 2001年9・11事件に関しても、理論政治学面から論理解説をしておけば、後のイラク戦争などは防げたことは言うまでもない。
 現代の社会現象を全て解明することは不可能な場合が多い。勿論(もちろん)、この種の理論政治学を確立させれば、スターリン分析は具体的実証・証言集めの前に機能分析その他より理論面から相当早く分析でき、当時のソ連を理解する上で誤解をすることはなかったであろう。北朝鮮問題も然(しか)りである。

 詳細はいずれ政治学の専門書で記すことにする。だが、今回のテーマである教育や特殊法人・独立行政法人の問題分析もこうした手法では相当早く理論分析できる。少なくとも社保庁事件や「機構」事件は防げたであろう。

 教育も現象であり法則がある以上、戦後の長期に亘(わた)る学校崩壊などは未然に防げ、教育学者とか「カリスマ先生」云々(うんぬん)と称する人物達の作文や感想につきあう必要もなかった。

 ただ、構造分析、機能分析、システム分析、サイバネティクス的手法利用……など、様々な分析手法を用いるためには、世界と歴史に関する膨大なデータベースが必要であり、同時にそれらの理念型モデルを幾つも作成しておく必要がある。こうした膨大なデータベース作成は一人では不可能である。…… 

 

 

 

【追記。2015年6月9日解説】

 上記は、拙著『親方日の丸―第二部・親方日の丸と日本経済』(安らぎ文庫、2015年8月18日発売予定)の「後書き」からの引用である。

 最初にこの原稿の土台を記したのが1998年頃であり、上記原稿を完成させ、出版を試みたのが2007年と2008年である。今回は、この原稿の誤字・脱字を修正し、電子書籍版にしたものから引用した。
 現時点で発売が決まっているのはKindle版だけであるが、7月中にはKoboとも発売契約を結ぶ予定でいる。また、他の電子書籍を出版できる出版社とも交渉し、多数の出版社から電子書籍で発売予定でいる。他の本も同様である。
 勿論、Paperで出版する希望がある出版社には喜んで応じる。他の本も同様である。
 経済事情が許せば、自分で出版社起業も検討中でもある。


【2015年6月14日追記】
 政経主張―9は抜粋のため、科学的政治学の樹立や、サイバネテッィクス論応用については分かりにくいと思う。そこで、後日、もう少し具体的に解説をする予定でいる。ただし、幾つかの語句のみを記しておく。
 柳条湖事件、盧溝橋事件、下山事件、三鷹事件、ケネディ暗殺、トンキン湾事件、……9・11事件……などの事例。反発を買うであろうが、真珠湾攻撃。
 アメリカで9・11事件がなかったならば、ブッシュ再選はなかったであろう。恐らく、ケリー(現国務長官)が米国の大統領となっていたであろう。また、イラク侵攻も困難となっていたであろう。さらに石油利権問題もあった。
 サイバネテックス型システム分析とは、Aをブラックボックス(B)に入力すればCとなる。このとき、Bの分析をせずに、AとCの関係からBの本質をつきとめるやりかたである。過去の膨大な類似事例との比較から、Bの本質は何かを確率論型で明白にする手法である。
 下山・三鷹事件などがなければ、日本の組合運動は急激に高揚していたであろう。トンキン湾事件を口実に米国がベトナム戦争に介入したが、トンキン湾事件は嘘であった。……反発が多大に予想されるが、仮説ではなく単に疑問として真珠湾攻撃を記す。真珠湾攻撃がなかったならば、当時モンロー主義の米国が第二次世界大戦に参戦するのに更に時間がかかったであろう。真珠湾攻撃については、泳がせか、偶然に可能となったのかは現時点では記す材料を持っていない(誤解のないように記すが日本の軍国主義擁護はする気は一切ない。ただ事実関係としての疑問である)。しかし、理論政治学が確率されれば、政策の中身はブラックボックスとしていても、有史以来の世界の膨大な類似事例から、本質が導き出されるであろう。それらの具体的手法(類似事例のPCを使用してのデータベース化、特に番号の重要性、理念型モデルのつくりかた……)については後日記すことにする。