政経―7:官と民の論理

【政経主張―第7回】官と民の論理

第7章・民営化万能論批判 


第1節・日本型〝民(みん)〟の構造
――日本型〝民〟では〝官(かん)〟の弊害除去は不可能

 21世紀に入り、大きな政府から小さな政府、〝官(かん)〟から〝民(みん)〟への転換のため、もはや問題はないと考えるのは大きな間違いである。日本型の〝官〟から〝民〟は全く問題を解決していないことをまず理論面から解説する。
 〝官〟の弊害は、親方日の丸体質にあり、労働者が時代の変化の中で、時代が求めているものを真剣に思考し、自主的に創意工夫する意欲を喪失したことにあった。だが、日本型の〝民〟では以下述(の)べる如(ごと)く、全く問題解決になっておらず、論理が逆にも拘(かか)わらず、同一症状を生み出している。その結果、私が20年前に見た猿の惑星へと近づいていった。21世紀初頭の日本型〝民〟の構造は以下の通りである。図示すれば【図表4の2】(この節の最後に掲載……)となる。

 α・企業間の競争でコストを下げるため、品質の低下及びリストラという名の下で(限度を超えた)人員削減により生産のみならず、販売の段階でその負(ふ)のツケを消費者へ転化するなど外部不経済が事実上まかり通っている。

 β・ただし、ライバル企業としのぎを削っている大量販売店及び大企業では、消費者から苦情がでると困ると考えると、今度はコストを下げかつ悪質でない商品をつくるための恐るべき方策を編(あ)み出(だ)した。即(すなわ)ち、パート労働者、次に契約社員、最後に正社員にそのツケを転化し、ワーキングプア及び労働力の二重構造を生み出している。αとβの混合が身震いする状況、新型公害を生み出している。

 私が第4章で分析した〈A〉親方日の丸構造は、新しい時代を意識し、それに責任を持ち、チャレンジし創意工夫する労働者を生み出す上での障害となっていた問題である。ところが、日本型の〝民〟への動きではこれがβワーキングプアのため企業への忠誠心の欠如や、自主的なやる気を喪失させ〈D〉仕事への愛情への欠如と情熱の欠如を再生産しており、労働者の労働意欲を減少させ、問題解決になっていない。次に、〈A〉親方日の丸主義では、〈C〉・〈イ〉ルーズ型形式主義や職場の機能不全の問題があったが、やはり、日本型民ではα新外部不経済(企業の負(ふ)のツケを社会に転化する)の如く、〈F〉機能不全を起こす体質を生み出している。機能不全、即(すなわ)ち、ミスのオンパレードである。物作り大国日本製品はピーク時は頑(がん)丈(じょう)で信頼が高かったが、今どのくらいリコールが新聞を賑(にぎ)わせているであろうか。そしてαとβが〈E〉人権感覚の麻(ま)痺(ひ)を生み出していることは記述する必要もない。
 γ・しかも、私大・私立高校の一部に見られるように〈B〉権益確保固執、〈C〉形式主義がはびこり、官の論理が民にそのまま浸透している問題もある。こうして、民の中にも恐るべき〈A〉親方日の丸主義も直(じか)に浸透してもいる。
 当然、日本型〝民〟にこれらの要因が存在している以上、私が見た未来「猿の惑星」が現れてきつつあるのは当然である。しかも、〝官〟の生き残りが、相変わらず親方日の丸因子〈A〉~〈F〉に侵(おか)されているため尚(なお)更(さら)である。
 
 α・新外部不経済についていえば、2007年6月頃から北海道食品加工卸会社ミートホープのミンチ偽装事件が社会を賑(にぎ)わせている。牛肉ミンチに豚肉を混入し、ブラジル産を国産鶏肉として売り、「腐臭がするほど古い肉を仕入れ、殺菌処理した上で、家畜の血液で赤く色をつけて牛肉にみせかけ」(朝日新聞2007年6月25日社説)、「廃棄した牛の頭部などを、社長の指示で拾った。洗浄し、消毒して使わざるをえなかった」と社員が言い、「同社はミンチに豚の肉や心臓、家畜の血、パン、化学調味料などを混入していた」(アサヒコム2007年7月3日)という。更(さら)には牛肉コロッケに賞味期限の切れたパンクズで容量を誤(ご)魔(ま)化(か)し、……と社会を呆(あき)れさせた。牛肉と偽(いつわ)り、豚、鶏肉、羊、兎(うさぎ)の肉の混入はまだ軽度の方であった。しかも、「ミート社のやり方を見かねた元役員らが昨年2月、農林水産省の北海道農政事務所に会社の不正を告発し、偽のミンチを証拠として持ち込んだ。ところが、まともに調査しないまま、事実上放置していた」(朝日新聞2007年6月25日社説)という問題もあった。
ここ数年の主な事件を挙げれば、2006年パロマ工業製瞬間湯沸器による一酸化炭素中毒事故を受けてのリコール問題(1985年~2005年にかけて発生した事故28件、死亡事故となった13件、21人死亡)、松下電器産業製FF(強制給排気)式石油温風機のリコール問題(2005年のみで2人死亡)、2005年耐震偽装(ぎそう)事件(姉歯建築設計事務所が設計を行った既に竣(しゅん)工(こう)済みを含むマンションなど20件に、構造計算書偽造(ぎぞう)の疑いがあることが発覚。震度5強の地震で倒壊するおそれがあるなど、生命・財産に直結する問題となった)……等々である。
 こうして、日本の得意分野・物作り面でのリコールの嵐(*1)は記すまでもなく、過労によるバス・トラック・汽車などの交通事故問題も然(しか)りである。民間でのルールなき競争の激化により(民間の)α(新外部不経済)が官の〈F〉(職場の機能不全とそれへの無関心)同様に機能不全症状を起こしている。
……

 β・ところが、企業によれば、競争が激しく消費者離れを極度に恐れる分野では、質のあからさまな低下は難しく、正社員への無料労働強制・出来高制及び裁量労働制悪用、更に契約社員・派遣社員利用、その下に現代の準奴隷であるパート、重(おも)石(し)として外国人研修生を利用する。
 ちなみに、尤(もっと)も悲惨な重石(おもし)は外国人研修生と世間でエリートと思われている研修医及び大学非常勤講師である。大学非常勤講師については随(ずい)所(しょ)に記したが、研修医も1990年代は月給が6万円程度であった。(将来医学部教授確約と騙(だま)され、私の如く非常勤・研修医のままで、20年監禁されると私と同一となる)。

 ……前者の例としては、「多額の借金をした中国人研修生が2006年……残業代が少ないことが不満で殺人事件を起こした……時給450円で月50時間前後の残業……中国の研修生派遣会社も、『紹介料』として研修生から70万円から100万円とるのが常識」{牧原創一「外国人研修生」(「朝日新聞」2007年8月17日)}という。
 なお、「法務省の統計では2006年に来日した研修生は9万2856人。警察庁によると、同年の刑法犯での検挙者は585人、失跡者は1178人に上」(「同上」)っている。また国会で取り上げられたベトナムからの研修生は時給300円の上に、会社が倒産し天(てん)引(びき)貯金90万円は戻らず、更に日本に来る際の仲介手続料借金120万円があるという。
 こうして、官でみた〈E〉人権感覚の麻痺(まひ)に結びつき、それが〈D〉仕事への愛情・情熱の欠如を助長する。長期に亘(わた)り低賃金による消費支出の減少→有効需要減少→景気停滞→そのつけを国債の発行その他への転化という悪循環を生み出していた。景気は第4節に記すように、私の予想通り大きく回復している現在(2007年)ですら、国内ではこうした状況のため景気回復の恩恵を大多数の国民は享受(きょうじゅ)できず、万一円高かアメリカや中国経済に危機が訪れれば輸出面も危機を迎える危険な構造となっている(*2)。

 そこで、厳しい労基法改正と労働行政の徹底化が必要となるが、労基法違反をした方が勝ち、若しくは人件費を――うまく最低賃金法以下も含め――できる限り安くした方が勝ちとなっている。これを是正(ぜせい)するためのルールを作らねばならぬときに、逆に違反を奨励する残業賃金無し法案などのルールを作るという動きすらでている。即(すなわ)ち、官から民へ移行して解決すべき問題は別の論理でそのまま再生産されている。そこで、私が見た未来の「猿の惑星」が、永い眠りから覚(さ)めるや否や予想以上に迫ってきた。マスコミは造語を作り「ワーキングプア」と名付け出した。だが余りよい造語ではない。昔の「女工哀史」の方が適切な言語であり、現代は「労働哀史」でしかない。
 小さな政府、民営化を唱(とな)えるならば尚更(なおさら)この問題は重要である。民営化の発想は、労基法違反をし易(やす)くしたり賃金を抑えたりすることではなく、親方日の丸型無駄構造をなくし、責任を持ち、創意工夫する労働者を生み出すことにあった。創意工夫する労働者とは十分な報酬と時には奇抜なアイデアを生み出せるように、長期休暇などのプラス待遇を与え、その代わり、それらの労働条件が与えられた上での怠慢(=労働意欲の欠如と無責任体質、則(すなわ)ち岡短に見られたミス型の連続)ならば解雇となり、そうした厳しさも要求される。現在は産業革命期の悲惨な労働状態のニューバージョンでしかない。
 (*2)この『親方日の丸』を記述したのが、2007年10月であった。その後12月にアメリカのサブプライムローン問題から飛び火した世界同時金融危機と90円台という円高(2008年11月現在)により、私の懸念した事態となり、日本経済が不況、若しくはスタグフレーション状態に入ろうとしている。内需主導経済を志向しなかったツケでしかない。

 γは親方日の丸主義、利権構造が民間を汚職している問題である。今回のテーマの一つである教育に限定してこの問題を記す。幾(いく)つかの都道府県では、少子化時代に入り、私立高校が連携して教育委員会に公立高校の定員枠を減らしてくれと陳(ちん)情(じょう)や圧力をかけたという記事を読んだ覚えがある。あるいは、都道府県側で私立高校に配慮し定員削減をすることもあると聞いたこともある。

…… γ(民の親方日の丸類似現象)は岡短で見た如く、いとも簡単にα(ワーキングプア現象)とβ(新外部不経済)と結びつく。肩書社会で劣る学校はすべて崩壊、それを阻止すべく(学生以上に)学校の無法が繰り返される。教員単位認定権干渉・剥(はく)奪(だつ)、2006年高等学校の必(ひっ)須(す)漏れ、2007年7月では高校の受験実績水増し事件……と。官僚類は学校のトップに天下り……

 即(すなわ)ち、γがβワーキングプア現象とα新外部不経済の両方と結合し、親方日の丸因子〈A〉~〈F〉と同一現象を生み出し、親方日の丸の腐敗の極地、親方日の丸の最終段階となる。もはや、こうした親方日の丸を票目当てに擁護し続けた政治家ですら、手に負えなくなり、非難せざるを得ない段階となる。

 

 

 

 

 


 


 

【追記。2014年11月29日解説】

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  • 購入方法と見本→安らぎ文庫・『親方日の丸―第二部・親方日の丸と日本経済』案内箇所。
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