提言―6・北朝鮮問題に関する提言

  •  田原総一朗氏の番組の中で、北朝鮮による拉致問題解決の方法を尋ねられた気がしたことがある。そのときに喋(しゃべ)った内容を、拙著『日本のフィクサーME』の中に記した。ただし、友人三人(明神君、布袋さん、はかせ)との会話という形で記している。


七・拉致問題への提言(田原氏への返答)

 明神(みょうじん)君は小銭(こぜに)については関心が強いが、大金の動きにはさほど関心を持っていなかった。布袋(ほてい)さんはその逆である。ハカセはお金には無頓着の人間であった。但(ただ)し、統計学の本を買うときは別であるが。布袋さんは、今言ったように、お金に関心が強いが、元(げん)だ、ユーロだという話には余り興味を持っていなかったので、話題を前に進めようと、拉致(らち)問題について尋ねてきた。
 「田原さんの番組で拉致問題で何を言ったの」
 「田原総一朗氏がね、サンデープロジェクトか、朝まで生テレビの中で僕に尋ねてきたことがあったんだ。北朝鮮による拉致事件はどうしたら解決するかって」

 酔っ払った勢いで布袋さんが本音を出してきた。
 「北朝鮮なんて軍事的に大したことはないんだ。だから、米軍と韓国軍が一気に攻め、日本が後方支援に回れば、一箇月以内に政府は転覆(てんぷく)するね。ひょっとすると二週間程度かもしれないよ。だから、北朝鮮は核を持とうとしているんだろう。しかも一九五〇年の朝鮮戦争のときと異なり、お財布(さいふ)であった旧ソビエトはもはや存在していないし、中国は五十万人もの義勇軍はもう出さないよ。あっと言(い)う間(ま)だね。その内に崩壊するよ」

 既(すで)に述(の)べたが、布袋さんは、他人に合わせる性格のため通常の人にはバレていないが、信条は保守派である。ただ、家が郵便局のため、小泉郵政改革に反対だっただけである。他方、明神君は、その逆であった。彼の一家は全員が左翼と言われる部類に入る人達であった。しかも、お父さんなんかは戦前からの闘士でもあった。ただ、あからさまに布袋さんを批判すれば対人関係が気まずくなるため、私の口を借りて自分の言いたいことを言わせることがよくあった。この日もそうであった。
 「そんなことをしたらイラクと同じになるよ。泥沼になるよ。それにサー、日本にも経済難民がボートで多数来て大変だ。ところでサー、ボンちゃんはどう言ったの」

 「僕はね。相当昔から言っているんだけど、北朝鮮を市場経済に巻(ま)き込(こ)むことが一番早道だと思っているんだ。つまり、ベトナムのドイモイ政策とか中国の社会主義型市場経済などだ。北朝鮮が門戸(もんこ)を開放すれば、安価な労働力を求めて、日本企業・韓国企業・中国企業・欧米の企業がなだれ込むよ。何しろ、日本などからは近いからね。それに周辺が海なので海上輸送となり、送料が安くつくだろ。人口が少ないと言ったって、人口二千四百万人だ。シンガポール(人口四百七十万人)などの五倍で、オーストラリア(人口二千百万人)やマレーシア(人口二千七百万人)くらいの人口だ。言語もハングル語なので、日本でもハングル語ができる人は相当いるしね。
 しかも、北朝鮮自身も、今のパトロン頼み経済では行(い)き詰(づ)まることは百も承知だと思う。〝極左冒険主義的おねだり外交〟でも、問題の本質は解決しないことは誰にでも分かるだろ。北朝鮮経済は市場開放政策に入るしかないと思う。
 そこで、市場経済に巻き込めば、中国と異なり国土は狭いので、拉致被害者などを隠すことはできなくなると思う。すぐに噂(うわさ)が入るからね。これが一番近道だったんだ。だから早急に市場経済に北朝鮮が参加するように誘導すべきだったんだ。市場経済に入れば、ベトナムとは比較にならないくらいに、北朝鮮の変化の速度は速い。地理的にも、韓国からの企業が入るからね。韓国と北朝鮮では言語も同一だし、親戚(しんせき)も双方にいるし、距離も近いし、伝統文化も同一なので、凄(すご)い勢いで変化する。しかも、ITも急速に普及するため、拉致被害者情報を覆(おお)い隠(かく)すことは不可能となる。だから、市場経済への誘導を二〇〇〇年から開始していれば、今頃は解決していたか、二〇一五年までには解決していたと思う。それが拉致問題のみか核問題などの一番早い解決方法だと思っているんだ」

 ハカセは保守でも革新(左翼)でもなかった。両者を超越した、浮世離れした人間である。それだけに左派も右派も言いにくいことを突然言い出すことがあった。この日も酔いが後押しし、北朝鮮問題で驚くようなことを言い出した。
 「この世は浮世(うきよ)。北朝鮮は芝居(しばい)をしているんじゃないかえ。戦前の日本の真似(まね)をして、戦前の日本はこうだったんですよって、敢(あ)えて芝居をやっているんじゃないか。何から何までそっくりだ。拉致家族は戦前の強制連行の芝居だ。拉致問題は解決しなければならないけど、拉致被害者家族のことではないが、政治家なんてそれを利用し、拉致問題を水戸黄門の印籠(いんろう)みたいにしているしね。どの議員も印籠を見るとそれだけで沈黙だ。逆に戦前日本に強制連行された人などが賠償や当時の賃金を求めても、『そんな古い話を今頃して』で切捨てだからね。それが証拠に拉致問題以降、戦前の強制連行被害者の裁判がマスコミをほとんど賑(にぎ)わさなくなったからね。
 拉致とは無関係だけど横井庄一氏(一九一五~一九九七年。一九七二年まで終戦を知らず、戦後も二十八年間戦争状態にあった人)が帰国したときなど、わずか十万円程度しか支給していないんだろ。おまけに戦死と思われ昇進していたのが生きていたので格下げしただろ。ボンさんの言う平等原則が必要だと思う。誤解しては駄目だよ。拉致被害者家族の待遇(たいぐう)を悪くしろとは言っていない。逆だよ。拉致被害者をもっと優遇し、同様に中国残留孤児の帰国者などもそれに準じた待遇にしろということだ。勿論、戦前の強制連行被害者にも同様の対応をだよ、だよ、だよ」

 「ハカセ、酔(よ)ってるの。ハカセらしくないね。拉致被害者と戦前の強制連行被害者を対立させるようなことを言ってはいけないよ。本来は拉致被害者と戦前の強制連行被害者・従軍慰安婦(いあんふ)の人達は共に手をとり、この世から拉致などの危害をなくしたり、被害賠償に向けて手を取り合ったりすべきなんだ。今はそうはなっていないけどね。
 ただ、日本は犯罪国家みたいで、賠償や補賞問題は大変だと思う。海外で日本により被害を受けた人への補賞、強制連行被害者・従軍慰安婦被害者、国内でも水俣病被害者、原爆被害者、大空襲などの被害者、シベリア抑留(よくりゆう)被害者、ドミニカ共和国移住被害者、各種肝炎被害者、ハンセン病でのゆわれなき差別を受けた被害者、……また労災被害者、沖縄米軍基地被害者、国民年金未受給被害者、あげたらきりがない。でも、全部適正額で賠償や補賞をしなければならない」
 「ボン、正気かい。今の日本にそんな金があるわけないだろ」、と布袋さんは私の言ったことは現実離れしているというように、呆(あき)れた顔で言った。
 「だから、交通事故と同様に強制保険及び任意保険整備をしておくことだ。交通事故が膨大(ぼうだい)にあったとき、昔ならば賠償は不可能なケースが多かったが、今は轢(ひ)き逃げでない場合には自賠責以外にも保険会社から金は一定は出る。その代わり掛金がいる。だから、国家の行為により被害を受けた場合には、適正な額(がく)の賠償値まで出せるように、国や地方公共団体は民間保険会社に入っておくことだ。可能ならば世界的レベルの保険システムでね。場合によれば国連を舞台にそうした機関をつくることも一考に値すると思う。そして掛金(かけきん)はそうしたケースが多いと予想されたら高くなるし、そうでなければ低くなる。企業も公害保険などを創設し、入るよう義務づけるべきだと思う。労災時の民間任意保険もね。勿論(もちろん)、悪質な場合には刑事罰が別に適用されることは言うまでもない」

 ハカセは、徒然草(つれづれぐさ)のメニューに釣られ、ハイボール、焼酎(しようちゆう)、カクテルと次から次へと飲んでしまったため、更に酔いに任(まか)せて唸(うな)るように言った。
 「隣国の反日教育はこれ如何(いか)に!北朝鮮は戦前の日本の猿真似(さるまね)で、中国は公害だらけの高度経済成長期の日本の猿真似で、とくりゃあ。北朝鮮が反日教育(戦前の日本批判)をしたら、今の自国の批判と同一也(なり)。中国経済旺盛(おうせい)也(なり)。高度経済成長期の日本の被害者は中国みて同情也。阿賀野川、水俣(まみなた)病被害者や四日市喘息(ぜんそく)患者は、中国見て心配多大也。こりゃあこりゃあ。中国経済に恐怖を感ずるのは高度経済成長期のボロ儲(もう)け人間のみ、とくりゃあ」
 部屋の長椅子(いす)に胡座(あぐら)をかいて座ってた明神君が、横から口を挟(はさ)んできた。
 「ハカセサー、今の中国経済で危機感持っている人がもう一人いるよ」
 「それは一体どなたですかね」
 「中国政府自身だよ。ボンちゃんサー、それでも北朝鮮を市場経済に巻き込みたいの」
 「いや、僕が言ったのは、拉致被害者問題を解決する方法で一番早く一番効果があるのは何かと言われれば、北朝鮮を市場経済に巻き込むことと言っただけだ。悪魔(あくま)で拉致(らち)問題解決あるいは北朝鮮核問題解決への道のことだよ」
 何度か中国に行ったことのある明神君が、昔の中国を懐(なつ)かしみながら、話を続けた。
 「中国はサー、昔、多数の人が人民服を着ていたんだ。僕が高校の頃なんかサー、北京なんて自転車だらけだった。それに『あゝ野麦峠』が中国で上映されたときには、大竹しのぶなんて、中国で大竹先生と言われて大フィーバーしていたんだ。それがサー、今では、上海辺りでは子供は日本の塾通いの子とそっくりで、若者はサングラスして……、だろ。ボンちゃんサー、高度経済成長は中国にプラスだったと思っているの」
 「僕も、高度経済成長期の弊害は山ほど覚えているよ。空襲警報がなっていたよね。『光化学スモッグ注意報発令、光化学スモッグ注意報発令!直ちに外出を控(ひか)え屋(おく)内(ない)に避難』ってね。それに大学の授業料などでも高度経済成長のために泣かされたよ。我が家はね。僕が小学校五~六年頃(一九六四年頃)に父が病気で教師を辞めたんだ。だけど偏屈(へんくつ)な親父さんも僕のことを心配していたそうだ。そこで父は僕が大学に行っても困らないようにと考え、退職金の中から僕の大学四年間の授業料と生活費四年分の合計を残してくれたんだ」
 「ボンちゃんサー、いいお父さんじゃない。写真はどこかの頑固(がんこ)爺(じじい)って顔をしているけどサー。で、幾(いく)ら残してくれたの」
 
 「五十万円のみ。これで息子は私立大学に行っても大学四年間はバイトをしなくても生活も丈夫(だいじようぶ)、学費も入学金も大丈夫と言ってたよ。実際、その頃ならば本当にそれで大丈夫だったんだ。高度経済成長期の物価について面白い話をさせてよ。僕はね、一度だけ、人の金を使ったことがあるんだ。姉のへそくりだ」
 「ボンちゃんみたいな正義の味方がそんなことをするの。で、幾らちょろまかしたの」
 「百円。それも盗んだのではなくて、姉が僕の部屋の棚(たな)に百円を置いていたんだ。それで百円の内の一部を拝借(はいしやく)し、後で返そうと思ったんだ。というのもその日は喉(のど)が渇(かわ)いていたので、その金で近所の店でジュースを一本だけ飲もうと思ったんだ。ところが、一本飲むと甘いので余計に喉が渇き、また一本、また一本と、何回か買いに行ったんだ」
 「ボンちゃんサー、ボンちゃんの田舎って、百円でそんなに買えるの」
 そこで、当時の私の身の上話から初めて、高度経済成長期の話をすることにした。確か六回か十回程度行った記憶がある。すると店屋の小(お)母(ば)さんが、「お宅のお子さん、何度も、我が家へジュースを買いに来られたので、少し心配になったのでお知らせしておきます。……
……

 おまけに、高度経済成長期は公害対策・福祉などは経済成長の邪魔(じゃま)という発想があった。高度経済成長がバラ色ではないことは、高度経済成長に乗れなかった人はみんな感じていた。高度経済成長期の日本人はエコノミック・アニマルと呼ばれていたしね。影抜きで、高度経済成長することはありえない。中国も十分に分かっていると思う。
 それでも鄧小平(とうしょうへい)(Deng Xiaoping[ダン・シャオピン]、一九〇四~一九九七)は市場経済に舵(かじ)を切らなければならなかった。北朝鮮はそれ以上に市場経済に舵(かじ)を切らざるを得ない。影があってもそれしか道はない。抗がん剤がまだ十分発達していなくても、癌(がん)を手術できなければ、抗がん剤か放射線治療となる。北朝鮮が市場経済に舵を切れば、国全体は豊になり、国民の収入の平均値はもの凄(すご)く上がり、豊になる。だけど貧富の差と弊害は至る所に出るだろう。この目で日本の高度経済成長期を見てきたから。ただ、私が提言したのは、北朝鮮の核問題や拉致問題の解決のためには、北朝鮮を市場経済に誘導することが一番早いということだけである。……

  • 拙著『日本のフィクサーME・下巻』第5章第7節より引用。
     ※上記文書は拙著『日本のフィクサーME・下巻』第5章第7節からの抜粋である。興味のある方は、『同上書』を本年(2015年)12月20日にアマゾン社の電子書籍・Kindle版として百円で発売するため、購入して全文を読んでいただきたい。なお、楽天・Koboなどからも発売を検討している。
  •  北朝鮮問題に関しては、中国の旅(2013年5月)にホテルで喋ったら、北朝鮮などにかなり誤解をされたように思われる。中国で喋った内容は『日本のフィクサーME・Part2上巻』(2016年発売検討中)に記している。その問題が絡み、韓国の旅(2013年12月)ではややこしい思いをしたことがある。その内容は『同上書・Part2下巻』で公表する予定でいる。
  •  北朝鮮を見ていると戦前の日本そっくりに思え、今の中国を見ていると高度経済成長期の日本そっくりに思えるのは私だけではないと思う。これらを踏まえて、北朝鮮問題を後日取り上げることがあるかもしれない。