提言―3・北方領土

【北方領土問題に関する暫定的主文コメントの要約】

 北方領土は歴史的経過、条約の有効性などから判断して、日本固有の領土と解釈される。

1・ロシア側と真摯(しんし)な交渉をして返還されれば問題ない。

2・もし交渉が難航するならば、国際司法裁判所に提訴すべきである。ただし、国際司法裁判所への提訴は両当事国の同意が必要である。
 {【参考】一九七二年に大平正芳(まさよし)外相が北方領土問題の国際司法裁判所への付(ふ)託(たく)を提案したが、ソ連のアンドレイ・グロムイコ外相が拒否したことがある}

3・その判決で領土が戻ってくれば問題ない。

4・国際司法裁判所でロシアの領土と判定されたならば日本は今度はロシアと北方領土に関して売買契約若(も)しくはその他の利便を与えることにより、買い取るしか方法はない
 後者の場合には、ロシアが北方領土を所有する利益以上の利益を他の手段で得られると判断すればロシアは必ず応じてくる。竹島と異なり、ロシアにとって北方領土はソビエト崩壊後の今日ではもはや経済的価値だけしかない。それ以外には強いて言えば、領土問題の他への波及を恐れているだけである。だが他に波及しても、それ以上の利益がロシアにとってあれば問題は解決する。

いずれのケースにおいても、ロシアとの間で不可侵条約を締結(ていけつ)したり、様々な分野で友好関係を築いたりすることは効果的である。そうした流れの上で、日露平和条約の締結が求められている。領土問題は国際司法裁判所にその判断を委(ゆだ)ねるとして結論は後回しにしてでも、日露平和条約締結は急がなければならない課題である。
 将来的には領土紛争に関する裁判所を国連内に設け三~四審制例・(今後創設すべきである)国際領土紛争裁判所の裁決、不満があれば国連総会、更に不満があれば国際司法裁判所、まだ不満があれば最終的に国連安保理、国際領土裁判所と国際司法裁判所の三者合議裁決}とすることなどの国際間のルール(枠)の構築を図らなければならない。国際機関の大改革が望まれてもいる。
 尤(もっと)も、国際世論に訴えると同時に、大局的に見てロシアにも有利になる条件(しかも日本にとっても長期的に利益になる案)を提示することが外交手腕であり、それにより解決できればそれにこしたことはない。ロシアでの経済危機時に経済協力・経済支援を有効的にすれば絶好のチャンスを生み出すであろう。そしてそのチャンスは過去に何度かあったが日本はそのときに無策であった大義と国際ルールの構築、批判を覚悟で言えば商談である。最後のカードにおいて日本は頭脳不足としか思えない。


【解説】

1・歴史的な帰属権の確認。
 北方四島の総面積は五〇三六平方キロメートルである。択捉島(えとろふとう)は我が国最大の島で三一八四平方キロメートル、国後島(くなしりとう)は約一四九八・八平方キロメートル、色丹(しこたん)島は二五三・三平方キロメートル、志発島(しぼつとう)四五平方キロメートルを含む歯舞(はぼまい)群島は九九・九平方キロメートルである。北方四島は、尖閣諸島の約千倍、竹島の約二万倍以上の大きさである。北方四島の総面積は千葉、愛知、福岡の各県に相当し、択捉島のみでも鳥取県とほぼ同一面積である。こうした地が特別な事情がない限り長期無人島であることはない。
 日本政府は、「日本はロシアより早くから北方領土の統治を行っており、ロシアが得撫島(うるっぷとう)より南を支配したことは、太平洋戦争以前は一度もない」と主張している。資料不足で断定はできないが、私は現時点でこれ以外の資料には出くわしていない。
 また現実問題でも、故郷・竹島に戻って死にたいという人は一人もいないが、故郷・北方領土の島に戻り死にたいという日本国民は多数いる。ここも竹島、尖閣列島と問題が異なる点である。北方領土返還問題は、言わば沖縄、小笠原返還交渉問題と類似している。


2・条約上の問題。
 日本とロシアとの間での北方領土問題に関する条約は一八五五年の日露和親条約(下田条約)と、一八七五年樺太・千島交換条約である。自然法の道理に照らして、軍事で奪った土地及び軍事的抑圧で結んだ条約は今後は無効とするように国際法を改正すべきと考えている。しかしながら、この観点から考えても、両条約は当時国力に劣る日本が国力で勝るロシアを威嚇(いかく)して結んだ条約とは解せない。(ここも竹島問題とは異なる。)依(よ)って、両条約は有効であり、北方領土は我が国固有の領土となる。
 なお、一九四三年モスクワ会談(モスクワにおいて米・英・ソ三国外相会談)や、同年十一月末テヘラン会談(イランのテヘランにおいて、米・英・ソ首脳会談)の席上、ルーズベルト米国大統領がソ連に対して、南樺太と千島列島をソ連に与える見返りに、対日参戦することを求めたと言われているが、日本が武力で得た領土以外の日本の領土を、米国がロシアを含む他国に自由に譲渡する権利は持っていない。依(よ)って、この時にルーズベルトが北方領土に関する如何(いか)なる約束をロシアとしていたとしても無効である。(現在は、アメリカは北方領土は日本固有の領土であることを支持している。)
 また旧ソビエト時代に締結された日ソ共同宣言でも、平和条約締結後に歯舞(はぼまい)群島・色丹(しこたん)島をソ連が日本に引き渡すと記載された条文を盛り込んでいる。
 これらを総合して、二十一世紀的視点からは、条約上も北方領土は日本の領土としか解釈できない。同時に、軍事及び軍事的威嚇(いかく)で奪った土地は他国の領土とすることはできない趣旨の国際条約の締結が、二十一世紀には求められている。


3・解決策
 解決策は、私はまだまとめていない。ただ、現時点では以下のことを漠然(ばくぜん)と考えている。

(1)全世界の領土問題解決機関の創設と関連条約を提起すること。
 例(たと)えば、領土に関する国連常設専門裁判所を創設することなどである。更に、その場合には暫定的主文コメントに記したように、四審制などのように一審制としないことも不可欠である。
 北方領土問題のみならず、世界の領土問題に関して、二十一世紀に相応(ふさわ)しい条約を提起し、国連加盟国間で締結することが求められている。軍事で奪った土地を自国の物にするなどは言うに及ばず、今後は無人島や海に浮かぶ岩なども最初に発見した人が属する国の物にするという論理も無効とすべきである。深海、月や火星などの宇宙を最初の発見者・到着者の国の物とすることは大いに問題があるのと同様である。これら抜きでは北方領土問題での国際世論は巻き上がらないと思われる。

(2)当面は領土問題は国際司法裁判所に付託(ふたく)するのが民主主義の常識であるように、世界を導くこと。その上でロシアも応じざるを得ない状況を作り、以下(3)の如(ごと)く国際司法裁判所に提訴可能となるような状況を作る努力をすることが望まれている。

(3)返還可能な島から返還を順次求めること。
 日ソ共同宣言に基づき、早急に日露平和条約締結のみか日露不可侵条約等を締結し、歯舞(はぼまい)・色丹(しこたん)の二島をひとまず日本側に返還させ、残った択捉(えとろふ)・国後(くなしり)の両島については、両国の継続協議とする案が望ましい(二島返還論修正案)
 要するに単純二島返還論では、ロシア側は、日ソ共同宣言締結前後にみられたように、歯舞・色丹の日本への引渡しで問題に終止符を打とうとする可能性が高い。そこで、外交手腕が問われる。ロシアの立場を変更させ、取りあえず二島返還を実現し、後二島は今後協議という形に外交で持って行くことが望まれる。
 具体的には、ロシアが危機に陥ったときに、助け船を出し、ロシアの譲歩を勝ち取ることである。例えば、ソ連崩壊後、ロシアは年五千パーセントのインフレに苦しんだことがある。その時に、ロシアのインフレを収束させ経済安定をさせる形での援助と引き替えに、二島返還、後の二島は引き続き協議と譲歩を勝ち取ることなどが望まれていた。若(も)しくは、二島返還後に残りの二島は国際司法裁判所の判断に委ねることで同意を勝ち取ることが重要であった。即(すなわ)ち、ロシア経済危機時が外交のチャンスとなる。ロシア国内の領土紛争に手を貸してはならないが、ハイパー・インフレイショーン時とか、一九八六年のチェルノブイリ原子力発電所事故時等に大型援助をすることなどが肝要であった。
 日本は口では二+二(まず二島返還、後の二島は引き続き外交交渉で)などと言いながら絶好の機会時には実質的には無策であった。たとえは悪いが、もし日本の借金九百兆円以上の内半分がなくなるような経済援助・支援・経済協力を提示されれば、日本は外交その他で相当譲歩をするであろう(実質的には商談を行う。将来、日本が更なる大赤字になれば、公的不動産資産の売買のみか、領土・経済水域も売買しなければならない時代が来るかもしれない。ロシアも他の国々も同様である)。巨大領土国・ロシアはそれ以上に譲歩をしてくる時期がある。ロシアのハイパー・インフレのときに何をしていたのかとなる。この時に日本政府は八千億円の無償援助をしたという噂(うわさ)もあるが、事実ならばその時に友好上の人道援助は紐(ひも)付きでなく行い、それとは別に実質的な商談と考えられる金銭・援助・経済協力を提案して、北方領土返還の枠組みを作るべきであった。
 なお、北方領土返還時には、北方領土周辺に自衛隊及び米軍を配置しないことも、条約で明示することを確約しておくことは絶対に不可欠である。

(4)その他。
 共同統治論、三島返還論等々についてのコメントは今回は省略する
 ところで、石油等の化石燃料から、自然エネルギー中心が世界標準となるように経済転換することは、北方領土問題解決にも大きな貢献をする。石油資源に依存している国へのダメージとなるからでもある。ロシアも石油で立ち直った国の一つである。
 ロシアはサウジアラビアに次ぐ世界第二位の原油生産国であり、同時にサウジアラビアに次ぐ世界第二位の原油輸出国である。二〇一一年二月初頭、サウジアラビアで騒動が起こっており、原油価格高騰が予想されているため脱石油は尚更(なおさら)必要とされている。石油を巡っての戦争、石油利権、石油消費量増大による地球環境問題、石油高騰下での貧富の差、……等により、北方領土問題抜きでも脱石油は緊急の課題とも言える。同時にその条件は太陽パネルなどで既に潜在的には整っている。そして、それは遠回りではあるが北方領土問題の解決にも貢献する道でもある

 

 

  • 【2015年9月27日追記と解説】
  • ①【上記提言・コメントの時期】尖閣での提言では、温家宝首相、菅直人首相が共に、私の意見に賛同したように思えた。そこで、ロシアからも調停をとなったような気がした。時期は多分二〇一〇年十月頃ではないかと思う。というのは、私のコメント直後に、メドベージェフ大統領が国後島を訪問し、ロシア領であることを主張したからである(二〇一〇年十一月一日)。
  • ②北方領土問題に関しては提言とせずに、(私の)コメントとしている。
    1)理由は、その頃は、再就職準備で大学への原稿送付作業などで多忙で、とてもではないが、返答できる時間的ゆとりがなかったからである。
    2)ロシアだけ、首脳との対談がなかったこと。尖閣問題では温家宝首相などと対談した気になった。竹島問題では(私の心の友・)盧武鉉がいた。ロシアだけは、ロシアトップの政治家とTVなどを通じても対談した気になったことがない。誤解を恐れずに、簡単に言えば、ロシア首脳だけまだ対談したことがないのである。そこで、彼らの言い分を聞いていないという問題がある。
  • ③そこで、ロシア大統領か、首相と対談をしたいと考えている。彼らの言い分を聞きたいからである。
  • ④これらの理由から、竹島や尖閣問題については提言としたが、北方領土問題は『日本のフィクサーME』の中で、コメントとしている。しかも、暫定的コメントとしている。ロシア首脳の言い分を直に聞かねば、提言はだせないからである。
  • 上記の文章は、今考えて、こうした方が良いではなく、二〇一〇年頃に私が関与した事項の情報公開をしているだけである。よって、今、考えたら……であるは記していない。。
  • 【資料】ドミートリー・アナトーリエヴィチ・メドヴェージェフ(1965年~)は、
    副首相(2005年11月14日 – 2008年5月12日)、第三代大統領(2008年5月7日 – 2012年5月7日)、第十代首相(2012年5月8日~)であり、私が『日本のフィクサーME』執筆の頃は大統領であった。