【主文】
ア・尖閣列島は、約五十年に亘(わた)り帰属問題は棚上げとし、双方ともに自国の領土と主張するしか方法はない。(可能ならば、密約ではなく、棚上げに関する条約締結が望ましいことは言うまでもない。〝可能ならば〟。)
イ・両国ともその五十年の間に、尖閣列島沖海底油田等の価値がなくなるように脱化石燃料化を推進したり、省エネを推進したりすることが望まれている。それは尖閣列島問題抜きでも、歴史が――両国合わせて二十億弱の人口を考慮すると、地球存続のために――日本・中国に求めている事項でもある。そして、尖閣列島の経済的価値がなくなった後で、尖閣列島について両国で協議をすることが望ましい。
ウ・但(ただ)し、尖閣列島周辺の漁業協定は早急に両国で協議して締結することが望ましい。
エ・なお、尖閣列島問題は、竹島問題と異なり国際司法裁判所に両国が付託することも一つの解決方法である。尤(もっと)も、国際海洋法条約を始めとする国際法自体が諸問題を内包しており、時代遅れとなっていることを考えると、五十年ほど棚上げの方が適切かもしれない。私が推奨する経済政策と、国際法改正がなされるならば、五十年後には尖閣列島問題解決は相当簡単になっていると推測される。
【理由】
1・歴史的な帰属権の確認
尖閣列島問題も社会常識上は帰属権判定は不可能である。尖閣列島は竹島の面積よりは大きいものの、五島三岩礁(がんしょう)で面積合計は五・五六平方キロメートルでしかない。
(1)歴史的経緯
尖閣列島の中の魚釣島は沖縄本島から四百十キロ離れた位置にある。石垣島からですら百七十キロ離れている。因(ちな)みに台湾からは百七十キロ、中国大陸からは三百三十キロである。参考までに記せば、那覇市の千キロメートル圏内には台北、福岡、上海がある。依って奈良や京都からでは約二千キロメートルの地にある。そうした地に遣隋使・遣唐使に見られる如く状態の中で、人々が当時の小舟で命(いのち)懸(が)けで、この小さい土地を利用しようと考えて行き、そこに長期定住したとは通常は推測できない。依(よ)って江戸時代までは国家主権が及ぶ状況にはなかったと社会常識上は想像される。
実際、中国本土、琉球(りゅうきゅう)王国、台湾先住民と様々な人々が短期滞在しており、どこの国の領土かを特定することは困難である。尖閣列島と思われる島の記述が、中国の書物では一四〇三年、一五三四年、一五六二年にある。
他方、一時琉球(りゅうきゅう)王国(一四二九年~一八七九年)の住民が尖閣列島に短期定住したこともあると言われている。しかし、琉球王国は独立した王国であり、一六〇九年に薩摩藩の侵攻を受けた後も、薩摩藩と清の両方に朝貢し、形式的ではあるが一応独立国家として存在していた。因(ちな)みに沖縄が日本の領土となったのは一八七一年(琉球処分)とする説が有力である。しかも琉球王国が存在している間中、尖閣列島に琉球の人が住んでいた訳ではない。
要するに、どの国も、尖閣列島の実質的実効支配を明治時代に入るまでしていなかったと推定される。
(2)戦前における国際法上からの判断
日本政府は、尖閣列島で一八八五年以降現地調査を何度も行った結果、無人島であり、中国・清朝の支配下にないと確認し、一八九五年に日本の領土に編入することを閣議決定した。しかし、二つの問題がある。
一つは日本の民法一六二条と一六三条では、こうした場合は必要期間として二十年を設定している。しかも、これは北条泰(やす)時(とき)(鎌倉時代第三代執(しっ)権(けん))以降の日本の慣例である。そこで、二十年を満たさぬ十年を持ち日本の領土であるという主張は国内の慣例若しくは法規(民法)との矛盾が生じるため、無効と判断される余地がある。
次に、本土から遠方の彼方(かなた)の地を最初に発見した人が属する国の物にするという決まり自体が、自然法に導かれる道理に反している可能性がある。分かり易(やす)く言えば、深海及び宇宙に関しては、最初に到着した人が所属する国の物とはできないという条約がある。(【参考】国連海洋法条約第11部、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約[宇宙条約]がある。特に、宇宙条約が世の道理に則していると思われる。)同様に自然法の道理に基づき、現在の国際法自体を改正する時期に来ている。
国際法上からの結論はどこの国の土地かを決定できるだけの条件が揃(そろ)っていない、ということである。
(3)戦後における実効支配問題
一九五一年以降は、同年のサンフランシスコ講和条約によって、沖縄の一部として米国施政下になり、日本の領土ではなくなっている。そして、沖縄本土復帰以前の一九七一年四月に台湾が公式に領有権を主張した後で、同年六月に沖縄返還協定が結ばれ、この時から尖閣列島も日本の領土であるという再主張が国内でもなされだした。なお、同年一二月に中国が外務省声明で初めて領有権の主張をしたとされる。要するに、一九四〇年から一九七一年までは日本の実効支配下にはなく、七一年から台湾、日本、中国が領土権を同時に主張しだしたのである。
以上(1)~(3)より、尖閣列島はどこの国の領土かは判定できない。ましてや、面積は八島併せて五平方キロメートルという小列島である上に、中国本土、日本、台湾からも距離が相当ある以上、社会通念上、若しくは将来のあるべき国際法上からは判定不可能が常識的回答である。
2・条約上の問題(公正な条約などによる判定)
一八九五年に日本が尖閣列島を日本の領土と宣言するが、一八九四年に日清戦争が起こっており、更に列強による中国の分割が開始されていることを考慮すると、当時の中国に異存があっても約五平方キロメートルの島の問題で異議を唱(とな)えられる状況にあったとは解せられない。依(よ)って、公正な条約や領土宣言により日本の領土になったとは、通常はみなせない。
3・尖閣列島の価値
尖閣列島自体には、排他経済水域を除けば、価値はない。戦前尖閣列島が日本領土に編入されていた頃の所有者が、一九七〇年代に埼玉県内の親交のあった人物に約四六〇〇万円で譲渡したというように、島自体の経済価値は四六〇〇万円程度でしかない。経済価値は排他経済水域内にある海底油田(イラクの石油埋蔵量以上だという説もあるが、どの程度かは未知数である)にある。但(ただ)し、現在の技術では日本などはこの石油を発掘するよりも、中東から石油を輸入した方が遥かに安いため、企業などが飛んで開発に参加してくる状況にはない。因(ちな)みに、この種の海底油田は世界に多数ある。
要するに排他経済水域問題――特に海底油田問題――を除けば尖閣列島に価値はない。
4・両国双方に主権の主張を薦めた理由
竹島と異なり、尖閣列島は日本による中国侵略のシンボル的意味を持つ島ではない。そこで竹島と異なり、管理を中国に委ねることはできない。その逆も然(しか)りである。依(よ)って解決策としては次の三点が検討に値すると思われる。
(1)国際司法裁判所に判定を委ねる。
(2)問題を五十年間棚上げする。どちらの領土とも五十年間はしない趣旨の新条約を締結し、協議は五十年後とする。若しくは、両国が――棚上げ条約締結が無理でも、表(おもて)か裏(うら)かを別にして棚上げを前提に――今後五十年に亘(わた)り共に自国領土と主張する。但し、別に新たな漁業協定、航海安全に関する五十年間有効な暫定(ざんてい)条約を締結し、問題を五十年先送りする。
その間のトラブル及び係争・紛争は右記の新条約で防止する。
(3)尖閣列島沖の海底油田を巡っての新条約を検討する。海底油田で膨大な利益 がでると思えば、双方が目先の利益を目指して妥協した新条約で利益を分けるという方法もあるが、私は以下5の理由で推奨しない。
5・将来
竹島と異なり百年ではなく五十年の期間を推奨したのは、地球温暖化阻止への道、エネルギー革命、大産業革命を五十年以内に行う必要性からである。これらは尖閣列島問題抜きでも、日本経済の命運が掛かっている事項でもある。そして、これが達成されたならば、尖閣列島の経済価値は石油問題を含めても再度四千六百万円以下に値下がりする。その時点で中国と話し合った方が問題解決が早い。
要するに、以下(ア)~(ウ)の問題の方が重要事項であり、この問題を解決すれば、尖閣列島問題も自(おの)ずから解決する問題となる可能性が高いからである。
(ア)地球を守る。
もし、中国、インドなどで、国民各人が米国民一人当たり石油消費量と同量の石油を消費したならばどうなるか、という問題がある。バングラデェシュ等も加えれば、単純計算すると石油の消費量は現在の十倍以上となる。石油枯渇問題のみならず、地球破壊への道となる。なお、根岸教授などが二酸化炭素を酸素に変える研究をしているが、もしそれが成功してすら、石油枯渇(こかつ)への道とは無関係である。
(イ)脱化石燃料の可能性
もし世界が本気で取り組めば、五十年以内に脱化石燃料が可能となる時代に突入している。日本などの先進国ならば、国家プロジェクトで行えば三十年で可能と推定している。石炭主体から石油主体への移行はわずか二十年足らずで達成されたことを想起するがよい。日本には石炭という資源は結構あるが、それらはあっても、もう発掘しない。コスト問題からである。黒いダイヤはもはや発掘コストを満たさない。同様のことが、国家プロジェクトで本腰を入れ、自然エネルギーに取り組めば、石油にも言える時代に入っている。
(ウ)日本経済の危機克服への道
借金大国日本経済を救う道は、消費税値上げレベルでは、借金は一円も返せないことは赤子でも分かることである。独立行政法人の借金も加えれば軽く千兆円を超える借金に、複利で利子が加算される。消費税を五パーセント上げた所で、借金自体は一円も減らないどころか、利子が利子を呼び増えていくだけである。一度電卓で計算してみるがよい。しかも、公定歩合がいつまでも限りなくゼロ・パーセント時代は続かない。やがて、昔の如く公定歩合三~六パーセント時代は到来する。その時、国債も利率を上げざるをえなくなり、国債の元本が大きければ大変なこととなる。
因みに、大借金を減らす政策は、歴史的にみると五つしかない。
①インフレを起こす。戦前のドイツでは十年間で一兆倍を超えるインフレが起きた。すると千兆円の借金は千円の借金でしかなくなる。その後デノミでリセットをする。
②日本が巻き込まれぬ戦争を起こす。一九五〇年の朝鮮戦争特需で、一九四九年のドッチラインで意気消沈していた日本経済は息を吹き返した。一説には朝鮮戦争がなければトヨタ自動車は当時倒産していたとも言われている。当然、私は反対である。
③イギリスの産業革命に匹敵する大産業革命を起こす。その牽引(けんいん)役の一つがエネルギー革命である。エネルギー革命、車から車でない乗り物(ビークルへ)へ、医療・介護・人命救済関連大革命、新IT革命、これらを組み合わせた大産業革命である。その意味でも、もし私が為政者(いせいしゃ)ならば、今後三十年以内に日本は自然エネルギー百パーセントの国にする。化石燃料は二十世紀に置いていくと宣言する。
コスト問題でも、太陽パネル発電などで石油の数十倍のコストがかかるという時代ではない。国家主導の巨大プロジェクトで自然エネルギー政策を推進すれば三十年で電力などを石油以下のコストで作れる時代に入っている。また、この大転換は一大有効需要を創設し、同時に大輸出産業育成政策ともなる。(因(ちな)みに、現在自然エネルギー百パーセントの国はアイスランドのみである。)
④立花隆氏が言っていたが、イギリスは大借金を二百五十年かけて返したという前例があるという。残りは将来の子供どころか三百年先の子供まで含めて三百年(江戸時代の長さに匹敵)かけて返すという道である。
⑤政府・自治体・独立行政法人等の資産を国内外で売却する。政府資産が七百兆円としても独立行政法人・地方自治体を含めればその倍程度かそれ以上となる。不動産の外国人を含む民間への売買のみか、領土及び経済水域自体をも外国への売却対象とする。領土自体を外国に売る場合には国内の土地を外国人に売る場合よりも値段は遙(はる)かに高くなる。主権の委譲問題が絡むからである。非常識と言うかもしれないが、増税を選ぶか不必要な土地や経済水域を売却するか、の選択として考えざるを得ない。
この五つの中で、事実上の選択肢は③~⑤である。そして③は(ア)(イ)を意味する。
6・参考記述
竹島問題で記したが、百年の間に国際海洋法条約も含める国際法全体を見直し、新たな時代に対応できる条約を国連中心に締結する必要がある。現在、自民党から共産党まで尖閣列島は日本の領土であると大合唱をし、毅然(きぜん)たる態度を取れと要求する。だが、それでは尖閣列島問題が万一片付いても、同様の島を巡る世界中の紛争・係争をなくすことはできない。同時に、月や火星などを考えれば分かるように、もはや見つけた人が所属する国の地という概念は通用しない。月ではなく深海を考えるがよい。同時に、私が推奨している脱化石燃料化政策は、石油を巡る紛争をこの世からなくす道でもある。太陽光や風(風力発電)を巡って戦争はまず起こらない。資源のない貧困国にとっての援助ともなる。
勿論、日中両国で尖閣列島を共同管理するという形で、双方の首脳、双方の国民が合意するならば、私は反対するものではない。ただ現段階では、その提案は両国家首脳とも国民感情を考慮すれば受けいれ難い状況にあるのではないかと推測し、【主文】という形のアドバイスをしたのみである。
- 【上記文書に関する解説】
- 《①引用元》浜田隆政『日本のフィクサー〝ME〟―上巻』第2章第六節より抜粋。
- 《②提言の時期・効果について》2010年9月7日の尖閣列島付近で、尖閣諸島中国漁船衝突事件が起こる。その結果日中両国が険悪な状態となる。その頃、菅直人氏の諮問を受けた形で私が間に入った気分となる。中国側も私が提言をすことに乗ってきたのは、以前、諮問していた「竹島(独島))提言に興味を持っていたのかもしれない。
ともかく、こうして間に入り、上記内容の提言をなした。その翌日、NHKが報じていた。「中国漁船が一斉に尖閣から引き上げていきます……何かあったのでしょうか」、と。この提言をした日を今特定作業中である。
ただ、覚えていることは、前原・ヒラリー会談(10月27日)で御破算に近くなり、再度以前ほどではないが、小トラブルが起こりかける。
〈メモ〉私が提言をだした数日後くらいに菅直人氏と温家宝氏がTVに一緒に写っていたのをみたことがある。日本国内かどうかは不明である。 - 《③限界点》この提言をなした後も尖閣問題の解決への展望はみえない。同時に、中国とベトナム、中国とフィリピン、日本と韓国……などの領土問題の展望はみえない。
- 《④今後》この提言は1)母の病気、2)膨大な干渉、3)資料収集を遮断された状況で述べたものである。よって、不十分な部分が多い。実際、その後、尖閣に関するいくつかの追加提言などを行っている。国内の登記簿と同様な形で、まず、揉めていない領土を国連加盟国全員で承認しあうこと。また領土に関する新国際条約を締結すること。……などである。これらは『日本のフィクサーME・パート2』で紹介する。更に、新たな提言は『日本のフィクサーME・パート3』で行う予定でいる。
- 出し惜しみをしているのではない。『日本のフィクサーME』シリーズは、私が過去行った提言や行動の情報公開であり、新しい提言類をしている書物ではないからである。いわば、歴史書に近い。なお、『日本のフィクサーME・パート2』は2011年から2013年まで、『日本のフィクサーME・パート3』は多分2014年~2016年までの内容を記す予定でいる。そしてパート3を持ち、『日本のフィクサーME』シリーズは終了したいと考えている。
竹島問題の提言は、あれしかない、と今でも思う。しかし、尖閣、北方領土問題は幾つか追加や解説をしたい部分がある。新提案もある。だが、それらを記すことはできない。何故ならば、この書物は提言集ではなく、過去行い、一定世界が動いたことのように思われた事項の情報公開にすぎないのだから。